地中にあって環境中のイオン移動に大きな影響を与えている金属酸化物のイオン吸着に対し次のモデルを開発した。1.酸化物表面でのイオン交換:pHの増加とともに、陽イオン吸着は増加、陰イオン吸着は減少し、挙動は質量作用側から外れる。次の仮定によりこの吸着反応の平衡モデルを導出した。(1)表面水酸基の水素イオンと陽イオン、水酸化物イオンと陰イオンの交換による表面錯体形成、(2)吸着イオン間横方向相互作用による吸着抑制。モデル平衡定数から、酸化物格子金属イオンの電気陰性度の増加とともに陽イオン交換(酸解離)は増加、陰イオン交換(塩基解離)は減少する。これから、格子金属イオンの電気陰性度が大きいほど水酸基の電子密度は小さく、水素イオンの放出は容易、逆に水素イオンの取り込み(水酸化物イオンの放出)は困難になるものと結論した。2.リチウムイオンのサイズに適合した格子空孔(鋳型)を持つスピネル型マンガン酸化物へのリチウムイオンの選択的取り込み:取り込み速度は、リチウムイオン濃度の増加に対し定常値に暫近するように増加、溶液pHの増加に対しては指数関数的に増加する。次の二つの素反応を考えて、この速度モデルを導出した。:(1)格子マンガン(IV)による水酸化物イオンの酸化に伴う格子空孔の励起と、ある割合でのその逆反応、(2)励起空孔へのリチウムイオンの取り込み。3.二酸化マンガン粒子内部への共存多価重金属イオンの取り込み:マンガン(II)イオンの電解酸化による二酸化マンガン析出の際、取り込み量は溶液濃度およびイオンの吸着親和性に比例する。これから、成長しつつある酸化物粒子表面への吸着を経てイオンが粒子内部へ取り込まれるモデルを提出した。いずれも、モデル化により現象の再現、予測が可能になるとともに、地中成分として重要な種々の金属酸化物のイオン吸着特性の評価が可能になった。他の地中成分である粘土鉱物、フミン質などへのイオン吸着のモデル化は行えなかったが、本研究で開発したモデルはこれらの成分についても適用可能と考えられ、今後の研究課題とする。
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