平板上に生じたコロニーを見ていると、河川にまず飛び込んできた、あるいは増殖した微生物がどの様なものであったかが気にかかる。今回の研究で得られた結果では、まだ十分に解析が進んでおらず、また分子生物学的な知見も当初の予定のように得られていない。しかし、多摩川の上流域で観察された河川水の細菌群集と比較して、同じ水の流れを持つ湧水の細菌群集は、芽胞形成菌・グラム陽性菌の割合が多く、これは土壌に多く検出される細菌群集の構成と似ている。土壌細菌を同様に分離してフロラ決定を行おうとしているが、土壌からどの様に細菌を分離するかという基本的な問題が未だ解決されておらず、まずその点から始める事になった。水循環と異なって、土壌の細菌群集を分離同定して比較する場合、土壌の団粒構造との関連で細菌を取り出す方法が問題となる。これまでの研究では土壌を一定の水に分散して、まとめてブレンダーなり、超音波なりで分散して細菌を分離していた。この方法では土壌を浸透して地下水脈にいたる細菌群集の特定は難しい。そこで洗い出しのように、土壌構造を壊さないで、移動する細菌群集を決定し、河川の起源の一つである湧水に出現する可能性のある細菌を分離する方法を考えている。また計数に用いる色素も、アクリジンオレンジのような水環境を中心に開発されてきたものでは、土壌の微妙な物理化学的性質の違いによって染色結果が異なり、対象とする土壌との関連で検討を加えなければならない事が明らかになった。どの様な色素を用いるのがよいかもまだ検討の余地がある。今回、河川水と同じ培地組成の平板を使って土壌細菌を分離したので、湧水細菌群集との関連はおいおい明らかにされるであろう。湧水と土壌の細菌群集の比較を行う事により、自然界における細菌群集の循環を明らかにできる可能性がでてきた。この様な解析の仕方は、平板法を利用する大きな利点の一つであろう。
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