東京湾奥部の海水の停滞しやすい人工的に掘り下げられた航路内および土砂採取跡の底泥堆積物では、自然海底よりも硫酸還元速度が大きかった。このような底泥にセストンを添加すると、硫酸還元は著しく促進され、その程度は硫酸還元菌の一般的基質である乳酸や、沿岸海域堆積物の主要な基質であると報告されている酢酸よりも大きく、アミノ酸混合物(カザミノ酸)と同程度であった。カザミノ酸添加底泥懸濁液に硫酸還元の特異的阻害剤であるモリブデン酸塩を添加したものと無添加のものの培養におけるアミノ酸の消長を比較することにより、カザミノ酸中のアミノ酸ではグルタミン酸、グリシンが最もよく硫酸還元の基質として利用され、次に、セリン、アラニン、アスパラギン酸、プロリンの順で利用されることがわかった。 底泥懸濁液にモリブデン酸塩のみを添加し、蓄積されるアミノ酸を分析した結果、この底泥ではグルタミン酸が4.3nmol ml^<-1> day^<-1>の速度で硫酸還元の基質に利用されるものと考えられた。この時の硫酸還元速度は4.7nmol ml^<-1>であったので、その基質の90%程度がグルタミン酸によって占められていることになる。 底泥懸濁液にセストン、カザミン酸を添加して培養後、乳酸添加培地とカザミノ酸添加培地で硫酸還元菌を計数すると、後者の培地の方が著しく菌数が高かった。セストンやカザミノ酸の添加でアミノ酸利用硫酸還元菌が集積されると考えられた。アガーシェイク法により運動性の短桿状の硫酸還元菌を単離し、その基質利用性を調べた結果、カザミノ酸添加が乳酸添加よりも増殖がよく、グルタミン酸、プロリンも利用した。プロリンを利用する硫酸還元菌はまだ知られていないので、この菌は新種の可能性がある。
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