酸性雨の起因物質である大気中の硫黄化合物が、自然発生(主に海水硫酸塩)的か人為発生(主に石油・石炭の燃焼生成物)的かを識別するために、環境硫黄を取り込んでいる植物の硫黄同位体比測定を行った。その結果、海洋に面している新潟、伊豆大島のツバキの葉に海水硫酸塩(delta^<34>S:20.2‰)に近いdelta^<34>S‰が見られたが、火山性硫黄の影響を受ける大島は新潟(5.6‰)に比べ、やや低いdelta^<34>S‰(4.2‰)を示した。東京都心部では2.0〜0.8‰を示し、自動車排気ガス(石油硫黄)の影響と思われる。また鎌倉で観測された2.2‰は、海岸といえども、京浜工業地帯に近く、交通量の多いことから石油硫黄の影響が大きいと推測される。この考察の前提には、一般に自然起源の主因である海水硫酸塩より、人為起源の石炭・石油硫黄のdelta^<34>S‰が小さいことがあげられる。この実験結果は、植物に含まれる硫黄が環境中の硫黄をよく反映していることを示すものであり、生体硫黄の同位体比測定が、環境硫黄の発生源の識別に有効であることを示唆しているとの結論を得た。さらに、石炭・石油硫黄の識別を行うために、産地の異なるこれらの化石燃料について、硫黄同位体比測定および同族元素であるセレンの定量を行った。その結果、delta^<34>S‰については石炭硫黄が-2.4〜+2.49‰と大きな変動を示すのに対して、石油硫黄は-1.3〜+13.3‰と変動幅が比較的小さかった。このような変動があるものの、平均すれば、人為起源の硫黄のdelta^<34>S‰が自然起源のそれより小さいことは事実である。しかし、セレン含有量は石炭に多く、石油に小さい傾向が見られ、硫黄同位体比とセレンの相関図より、石炭・石油硫黄を識別することができた。SMSによる同位体比測定では、硫化銀とした試料を錠剤成形器で700kg/cm^2でペレット調製することにより精度の向上を図った。大気と浮遊塵中の硫黄については、エアサンプラーで捕集した試料について、同位体比を測定中である。
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