現在問題となっている「酸性雨」対策の基礎として、大気中酸性雨起因物質(とくに硫黄化合物)の発生源を硫黄同位体比の観点から識別する研究を展開し、植物の葉など生体試料の硫黄同位体比の測定から、間接的にその生育環境(おもに大気中)の硫黄化合物の発生源が識別できる可能性を見出した。環境中硫黄の自然発生源は海水硫酸塩で代表され、そのδ^<34>S値は20.2‰であるが、人為発生源として石炭・石油数十種について硫黄同位体比を測定したところ、それらのδ^<34>S値は-10〜+35‰までのばらつきがあるものの、概して海水硫酸塩のδ^<34>S値よりは小さく、さらに石油のほうが石炭よりも小さいδ^<34>S値を示すことが明らかとなった。これらを硫黄発生源のデータとし、つぎに環境試料として大気・大気粉塵・雪・雨水・植物の葉・食品・ヒトの爪などについて硫黄同位体比の測定を行った。発生源硫黄の同位体比と環境試料の硫黄同位体比の照合を行ったところ、発生源硫黄が環境試料に反映されていることが観測された。例えば植物の葉の硫黄同位体比について、海岸近くでは海水硫酸塩、都心部では化石燃料、海岸付近でも工業地帯に隣接したところでは海水硫酸塩および化石燃料両者の影響が見られた。大気中の硫黄は石油由来、大気粉塵の硫黄は石炭由来と見做された。さらに食品とヒトの爪においても、海が2/3を占めている南半球ではそれらのδ^<34>S値は、2/3が陸地で工業国が多い北半球に比べて大きく、南半球は海水硫酸塩、北半球では化石燃料の影響が反映されていた。大気・大気粉塵・雪・雨水など同位体比測定に供する試料をサンプリングするには数か月を要するため、採取しやすい生体試料(植物の葉など)を代替えとしても、その生育環境の硫黄発生源の識別が可能であり、さらに同時期に各地でサンプリングができるなど今後環境中での硫黄の動態解析を実施するうえで大いに意義のあることと思われる。
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