研究概要 |
本研究に用いた新人為起源有害物質はダイオキシンで、その内最も毒性の強い2,3,7,8-Tetrachloro dibenzo-p-dioxin(TCDD)を使用した。マウスはC3H/Heの雄(10-16週令)を用いた。 腹腔投与によってダイオキシン(TCDD)は肝臓の約4%が精巣に到達した。この結果は、肝臓の68%が精巣に到達したメチルニトロソウレア(MNU)の結果に比べ、極めて低い。TCDDの100μg/kg腹腔投与により精細管中のセルトリ細胞に障害が生じた。この障害は処理後の時間とともに増大し、生殖細胞にも及んだ。しかし、100μg/kgの腹腔投与後の生殖細胞の不定期DNA合成(UDS)やDNA切断及び染色体異常は誘発されなかった。この結果は、これらの細胞障害はDNA損傷以外に起因することを示唆する。そこで、TCDDを精巣に直接1μgつづ投与(12.5mg/kgに相当)し、UDSを検索したところ、アルキル化物質やX線と同じ、早期精原細胞から早期精子細胞にかけて誘発され、後期精子細胞から精子には誘発されなかった。この結果は、腹腔投与によって1μg以上のTCDDが精巣に到達するとUDSが検出できることを意味する。また、精巣投与によるTCDDの精子への結合度は、MNUの4.4倍で、生殖細胞の結合依存性はメチルメタルスルホネートの結果に似ていた。 以上の結果から、TCDDの腹腔投与によって生殖細胞のDNA損傷と修復を検出するには、アルキル化遺伝毒性物質物質と同じ数百mg/kgオーダーの投与量が必要である。すなわち、TCDDは、DNA損傷の検出可能量が生殖細胞に到達したなら、アルキル化物質と同様な振舞いで継世代的影響を及ぼすことが予想される。しかし、100μg/kg腹腔投与でセルトリ細胞のみならず生殖細胞にも障害を受け、1ケ月以内に30%のマウスが死亡した事実から、TCDDは、雄マウスの腹腔投与に限り、着床後の優性致死や特定遺伝子座突然変異の様な継世代的影響を誘発する可能性は少ないかもしれない。
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