北海道内に残された貴重な湿原の保全を目的に、その基礎研究として湿原内の水収支や栄養塩を中心とした水質成分の動態解析を行った。湿原の開発技術に比較すると、あまりにも自然の湿原の科学的な研究や情報が少なく、保全手法は暗中模索の状態である。研究代表者らは、北海道北部豊富町と幌延町に広がるサロベツ湿原と北海道石狩平野中央部月形町に位置する月ヶ湖湿原とを対象に、具体的には湿原および周辺水域の地下水や表層水の性状を調査・解析し、湿原の水環境の実態と湿原を形成する地域環境を維持するための条件を検討した。平成5年度は、サロベツ湿原と月ヶ湖湿原を対象に2回の地下水採取パイプ設置(サロベツ湿原 5月、月ヶ湖湿原8月)の現場作業と前年度3月の冬期調査を含め水質現地調査(サロベツ湿原 5〜11月、月ヶ湖湿原 10月)を6回実施した。また現場の観測(自動記録)体制も、環境庁北海道地区国立公園管理事務所、北海道、豊富町、そして北大農学部の協力で、順調に稼働している。ただ天候が不順で、一般的な記録となるか、この点が気がかりである。新たな知見としては、高層湿原の表層水の組成が雨水の組成に近く、すなわち涵養水質成分が降水起源であること、笹が侵入した地域では土壌由来成分由来の水質成分の増すことが明らかとなった。このことは自然状態で保全するポイントが降水をいかに長時間保持するかということを意味しており、保全対策への有効な知見といえる。またサロベツ湿原の調査結果から、湿原の一般的水質の特性(水平・水直変化、地下水位との関係)を明らかにした。平成6年度においては、湿原内における水質成分の動態を、降雨時の連続調査や泥炭組成との関連から解明し、より具体的な湿原生態系の保存方法を提案したい。また湿原を取り巻く環境の水及び水質成分の動態を調査し、人間活動の制限も含めた広域的な管理対策についても検討したい。
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