土壌の砂漠化は世界的規模で進行しており、大きな環境問題となってきている。土壌を回復させ緑化を行うための一つの手段として、土壌へ水分保持剤としての吸水性ポリマーを添加することが着目されているが、化学合成されたポリマーは土壌中に蓄積され新たなる環境問題へと発展する恐れがある。本研究では、吸水性ポリマーを植物を素材として作製することを試み、その評価を中性子ラジオグラフィで行った。材料として混合針葉樹材パルプを用い、カルボキシメチル(CM)化することにより得られたポリマーを使用した。ポリマーは、パルプ材の微細繊維を除去し、イロプロパノール中に懸濁した後、モノクロル酢酸を添加しCM化することにより得た。ダイズを用いたポット試験では、土壌中に0.3%このポリマーを添加して植物体の生育状況を検討した。植物体の乾燥重量は、コントロールと同等であり、ポリマーは植物育成に影響を与えないことが確認された。次に、アルミニウム薄箱中でダイズを育成させ、中性子ラジオグラフィにより土壌中の根の生育状況を非破壊状態で調べた。照射は日本原子力研究所原子炉JRR3を用いた。根の片側にポリマーを添加した場合には、側根はポリマーが添加されていない側のみ生育した。また根の真下にポリマーを添加した場合には主根の生育深度がポリマーの上部で止まり、側根が上部で発達した。しかし、根および植物体の乾燥重量はコントロールと同等であり、地上部の生育状況も良かった。これらの実験を通して、本ポリマーは土壌中の水分保持機能のみならず、植物の生育に影響を与えずに植物を浅い土壌で生育させることが可能であることが判った。植物由来の吸水性ポリマーは、根の生育をデザイン出来るばかりでなく、土壌中で分解した後も環境に影響を与えないと予想されることから、砂漠の緑化剤として将来期待されると思われる。
|