研究概要 |
東南アジアでは燃料林としてマングローブが利用され、急速に森林面積が減少しつつある.ところが,繁殖形態が発芽種子という特殊な形態をとっているため,植林しようとしても保存が困難かつ採集も難しいのが現状である.そこで,マングローブの苗木を大量に生産することを目的とし,組織培養法を用いて培養細胞もしくは発芽種子の断片から幼植物を得るための技術を確立しようとした. 〈材料・方法〉我が国でマングローブの自生がみられる沖縄県西表島,種子島でヒルギ科に属する3樹種(オヒルギ,メヒルギ,ヤエヤマヒルギ)マングローブの生育途上にある発芽種子を採取し,これをカルス誘導の材料としてもちいた.発芽種子を70%エタノール,塩化ベンザルコニウムおよび次亜塩素酸ナトリウムで消毒し,厚さ5mmのディスクに切断して外植体として,MS培地に置床した.カルス誘導に用いた植物ホルモンは2,4-DおよびIAAとカイネチン,カルス細胞からの再分化実験にはIAA,NAAとBAPの組合せとし,それぞれ50,5,0.5μMの濃度になるよう寒天培地に添加した. 〈結果〉カルス誘導に用いた発芽種子は,丁寧に殺菌したにもかかわらず,置床した外植体の3分の1が雑菌汚染により壊死した.これは殺菌方法の問題ではなく,すでに外植体の内部に糸状菌が侵入していたためだと結論した.ちなみに,外植体の内部から糸状菌が発生した場合が多かった.しかし,残りの外植体からはホルモンの組合せが50もしくは5μMでカルスが誘導された.えられたカルス細胞は再分化実験をおこなうために継代培養したが,形状や色が数種類あったので,雑菌に汚染されている可能性あった.そこでこの培養細胞の一部をとり,雑菌の汚染の有無を確認するために光学顕微鏡で検鏡したところ,細胞塊の表面から採取したものは大部分が糸状菌であることが判明した.ただ,内部の細胞塊では糸状菌は認められず植物の培養細胞と思われた. 初期のカルス誘導実験では雑菌の汚染が避けられなかったが,なるべく未熟な発芽種子あるいは果皮を突き破っていない段階の発芽種子を取り出してカルス誘導を行った実験では,雑菌による汚染はすくなくなり白色の培養細胞がえられた.この培養細胞はさらに継代培養し,その一部を再分化培地に移植して,再分化実験を試みた.再分化実験に用いたホルモンの組合せの一部には緑色の細胞塊が増殖し,これから不定胚が形成される可能性を示したので,現在も再分化実験は継続中である.
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