本研究は、低平地開水路網の水環境管理手法と制御技術を確立するために、佐賀市街部水路網をケースフィールドとして、水質変換過程の機構解明とモデル化を行い、水質管理方策について考察を加えたものである。現地観測結果から、低平地開水路網は湖沼型の水質特性を有することを明らかにした。長期的には富栄養化防止が重要施策となること、また、下水道が普及していない現状を鑑みれば、導水対策や水路での直接浄化が対症療法的に必要であることを指摘した。低平地開水路網における流れと水質に関する数値モデルをグラフ理論を基に構築し、併せて現地観測データとの照合を行い、その実用性を確認した。佐賀市街部の水路網を対象として、導水対策と直接浄化対策について評価を行い、水質改善度からは導水対策が最も効果的であることを指摘し、下流域への負荷削減効果からは直接浄化対策との併用も効果的であることを示した。長期的観点からは、下水道整備後の環境維持用水について考察するために、滞留時間制御による藻類発生の抑制効果を評価した。導水量を現流量の2倍程度まで増加させるのみで、良好な水環境の復元が可能となることを示した。 牛津川流域の低平地を対象として、治水、利水、親水を考慮にいれた総合水管理について検討を加え、オランダで開発されたスコアカード法により、総合水管理のための政策分析を行った。最終的には、オランダで開発された評価手法は適用可能であり、牛津川流域については、浄化用水による水質改善効果および水路の排水能力改善による浸水被害軽減効果の組み合わせが、便益効果と総合水管理の実施可能性から見て有望であることを指摘した。最終的にはわが国の総合水管理は、低平地に限らず最小流域を単位として、個々の管理手法として確立されなければならないことを指摘した。
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