本研究は、食用ユリと立枯れ病菌との攻防を物質レベルで明らかとすることを目的とする。罹病食用ユリ鱗茎抽出物から既報告のファイトアレキシンとは全くタイプの異なる一連の抗菌活性有機塩素化合物を見出だし、これらの化合物の起源を解明するため一連の実験を行ない、次の結果を得た。1.健全鱗茎にはオルシノールとモノクロロオルシノールが存在するが、罹病鱗茎に見出だされる他の含塩素オルシノール誘導体は検出されなかった。2.紫外線照射により、上記含塩素オルシノール誘導体が誘導された。3.病原菌にはこれら化合物は含まれない。4.罹病鱗茎の病斑部にこれらの化合物が局在し、内部の健全部には見出だされない。以上の結果は、病原菌起源説、農薬由来説を否定し、食用ユリが病原菌侵入部において生産することを強く支持する。5.紫外線を照射した鱗片について経時的にガスクロマトにより追跡し、オルシノール含量がまず増加し、次いで、含塩素オルシノール誘導体が増加することを認めた。6.クロロペルオキシダーゼの第一基質である過酸化水素の経時変化を調べ、発生量が切断傷害、切断・紫外線照射で急激に増加後、経時的に減少することを見出だした。7.罹病鱗片あるいは紫外線照射した鱗片において、クロロペルオキシダーゼ活性が観測された。8.市販のクロロペルオキシダーゼと過酸化水素、塩化カリウムを用いて、オルシノールの塩素化に成功した。食用ユリは病原菌の侵入に際して、過酸化水素を産生し、クロロペルオキシダーゼが誘導活性化されることによりオルシノールの塩素化が進行し、水酸基のメチル化が起ることにより抗菌性を有する含塩素オルシノール誘導体が生成する考えられる。紫外線照射あるいは病原菌接種により誘導される量が著しく低いのは、自然界では土壌からのCl^-の供給が十分なのに較べ、取り出された鱗片中ではCl^-が不足するためと説明される。投稿準備中である。
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