キラルなリン化合物の合成とその特性を利用する修飾核酸の選択的構築と不斉合成への展開を目的として研究を行ない以下の幾つかの有用な知見並びに結果を得た。 1. 軸不斉ビナフトールを不斉補助剤とする種々のキラルphosphonate型試薬を合成し炭素-炭素結合反応が関与する有機合成的に重要な反応、たとえば不斉オレフィン化、不斉マイケル反応などに用いた。 2. 不斉オレフィン化ではメソ型のジカルボニル化合物に対して上記のキラル試薬によるHorner-Wadsworth-Emmons反応を行なったところ、エナンチオトピックなケトンが高選択的に区別され98%eeで光学活性エノン体が生成した。 3. 同類のキラル試薬を用いるモノカルボニル体に対する面区別反応においても75-92%eeの光学収率でキラルなオレフィンであるアレンやアルキリデン誘導体を与えることが判明した。 4. アリル型のキラルなリン試薬を用いるMichael反応を検討したところ、高いジアステレオ選択性(-95%de)で各種エノンに対する1、4-付加反応が進行した。 5. 3価のリン化合物であるH-ホスホネート体の合成を核酸誘導体を用いて行ない光学活性活性化剤との組合せにつき検討し、ジアステレオ選択的リン酸バックボーン部修飾核酸合成に向けての基礎的知見を得た。 6. 上記の核酸2量体のジアステレオマーの分離をHPLCを用いて行ない光学的に純粋な化合物のラセミ化、反応性等の検討を行ない、次いで5価のリンへの選択的酸化反応を試みた。 7. 以上、不斉合成や修飾核酸合成にキラルな有機リン化合物を適用して研究を行なったが、さらなる細部にわたる反応制御、メカニズムの解明は今後の課題として残った。
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