タンパク質中のチロシン、セリン、スレオニンなどの水酸基がリン酸化を受けることにより、そのタンパク質が活性化されたり、逆に活性が抑えられたりすることは以前から知られていたが、近年このようなタンパク質リン酸化の生化学的な意義をより詳細に解明するために、リン酸化を受けたアミノ酸残基を含むペプチドフラグメントの合成が強く望まれるようになった。われわれはペプチド合成に不慣れな生化学者でも希望するリン酸化ペプチドを合成できるように、固相法によるリン酸化ペプチド合成の一般的な方法の開発を目指した。方法としては、酸性条件でのアミノ保護基の除去を基本とするBocストラテジーが最も適当と考えられる。この方針に沿って、アミノ保護基の除去に用いるトリフルオロ酢酸に安定なリン酸保護基として、4-ニトロベンジル基あるいはシクロヘキシル基を有するホスホアミノ酸誘導体を用いた固相合成法を確立した。続いて、ベンジル基をリン酸保護基として用いれば、より温和な条件で最後の脱保護を行なうことができることも分かった。実際に、本合成法を用いて熱ショック蛋白質、EGF受容体蛋白質、タウプロテインキナーゼIなど、種々の天然リン酸化蛋白質関連リン酸化ペプチド約10種の合成に成功した。これまで、このように天然リン酸化ペプチドが容易に合成された例はなく、本研究の成果はリン酸化蛋白質の機能解明に多大の貢献をするものと期待されている。
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