本年度は、光学活性な脱離基を用いた不斉アシル化反応の有用性を検討する目的で、重要な合成素子である光学活性なbeta-ケトカルボン酸誘導体の不斉アシル化による合成を検討した。不斉脱離基としては、不斉要素を導入し易いこと、脱離した後脱離基が強い塩基性を示さないことなどを考慮にいれて、2位に不斉要素を持つベンゾイミダゾールを利用することにした。実際には容易に入手し得る(R)-マンデル酸より6段階で合成した2-[1-(rho-chlorobenzyloxy)-1-cyclohexylmethyl)benzimidazoleを用いてアシル化を検討した。次いでこれをアシル誘導体に導いて種々のエノラートとの不斉アシル化を検討した。その結果、エノラートとしてアミドエノラートを用いた場合に、収率良くbeta-ケトアミドが得られることが分かった。また、不斉収率は基質によって異なるものの、最高65%eeと比較的良好な結果を得ることができた。さらに脱離した光学活性なベンゾイミダゾールは単にアシル化するのみで、再度不斉アシル化に用いることができることなど、本方法論の有効性を示すことができた。ただ不斉誘起はアシル基上の置換基に依存するばかりでなく、アミドエラノートの窒素原子上の置換基にも依存することが分かった。一般的には窒素原子上の置換基が小さいほど不斉誘起が大きくなる。これまでのところ詳細な不斉誘起機構は不明であるが、今後さらに多くの基質を検討して不斉誘起機構を明かにし、それらを基により不斉誘起能の高い脱離基を設計する予定である。
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