本研究は、光学活性な脱離基による不斉アシル化反応という新しいタイプの不斉反応を開発することを主目的として開始した。本年度はまず、光学活性なイミダゾール誘導体の一般的合成法の開発を検討し、光学活性なテトラヒドロピラニル保護基の導入による2-(1-ヒドロキシアルキル)イミダゾールの合成を達成した。 さらに、β-ラクタム系抗生物質の鍵合成中間体の新合成法としてβ-ラクタムの3位不斉アシル化反応を検討した結果、生成物の3-アセチル-β-ラクタムは室温で容易にラセミ化することが判明した。このことはBinap-Ru錯体などによるdl-3-アセチル-β-ラクタムの不斉還元による二不斉中心の同時立体制御の可能性を示している。次に、アリル金属のアシル化を種々検討した結果、アリル銅化合物が有用であることが判明した。 一方、2-(1-ヒドロキシアルキル)イミダゾール誘導体を不斉配位子として用いる触媒的不斉反応も検討した。まず、伊津野、Coreyらによって開発されたオキサボロリジンを用いるケトンの不斉ボラン還元の反応機構について考察を行ったところ、従来不可能と考えられていたオキサボロリジンの酸素原子に結合したボランによる不斉還元に成功した(印刷中)。これらの結果も考慮してイミダゾール誘導体を用いた触媒的不斉反応を検討した結果、アントラセン骨格を有する2-(1-ヒドロキシアルキル)イミダゾールを不斉配位子として用いる不斉アルキル化反応で比較的高い不斉誘起が観測された(未発表)。 以上示したように本年度は、光学活性なイミダゾール誘導体の新合成法の開発に成功し、3-アセチル-β-ラクタムの物性、アリル金属のアシル化反応、不斉ボラン還元の反応機構、不斉アルキル化反応などにおいて多くの新知見を見出すことができた。
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