本研究は、光学活性な脱離基による不斉アシル化反応という新しいタイプの不斉反応を開発することを主目的としている。まず、マンデル酸より誘導した光学活性なベンズイミダゾール誘導体を光学活性な脱離基とするアミドエノラートの不斉アシル化が立体選択的に進行することを見い出し、最高6.5%の鏡像体過剰率のアシル化生成物を単離することに成功した。次に本反応を用いて、β-ラクタム抗生物質の鍵合成中間体の合成を検討した。即ち、β-ラクタムの3位不斉アシル化を検討した。その結果、生成物の3-アシル-β-ラクタムは通常の二置換3-オキソアミドとは異なり、室温で容易にラセミ化することが判明した。このことはBinap-Ru錯体などによるdl-3-アシル-β-ラクタムの不斉還元による二不斉中心の同時立体制御の可能性を示している。次に、アリル金属のアシル化を種々検討した結果、アリル銅化合物が有用であることが判明したが不斉反応への展開はまだ行っていない。 一方、光学活性な保護基を用いる2-(1-ヒドロキシアルキル)イミダゾールの新合成を開発した。得られた光学活性なイミダゾール誘導体を不斉配位子として用いる触媒的不斉反応では、伊津野、Coreyらによって開発されたオキサボロリジンを用いるケトンの不斉還元の反応機構についてまず考察を行い、従来不可能と考えられていたオキサボロリジンの酸素原子に結合したボランによる不斉還元に成功した。続いてイミダゾール誘導体を用いた触媒的不斉アルキル化を検討したところ、アントラセン骨格を有するイミダゾールを不斉配位子として用いて場合7.3%という比較的高い不斉誘起が観測された。 以上示したように本研究では、光学活性な脱離基を用いた不斉アシル化反応の開発に成功するとともに不斉反応の研究に有用な新知見を見出すことができた。今後も引き続き研究を進め、発展させたい。
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