ウサギ子宮内膜のコレステロール硫酸の濃度は 妊娠によって急激に増加し、非妊娠時の140倍に達し内膜全コレステロールの10分の1が硫酸化されている程である。この濃度の調節には硫酸基転移酵素の活性化と脱硫酸酵素の活性抑制という相反する反応が同時に作用していることを明らかにした。内膜培養細胞を用いて酵素活性の分布を調べると、上皮細胞に活性があって、繊維芽細胞を含む基質細胞には全くないことから、硫酸化は上皮細胞に起こっていることが明らかになった。さらに培養細胞を利用して硫酸基転移酵素の誘導機序を調べると、ステロイドの直接作用よりも細胞密度に関連していることが明らかになった。すなわち、硫酸基転移酵素の活性化は細胞増殖がコンフルエントに達した後に起こり、プロゲステロン刺激がかかろうとも、細胞密度がコンフルエントでなければ硫酸基転移酵素の誘導が起こらず、コンフルエントであればプロゲステロン刺激によって急激な活性増加が見られた。このことは、ウサギを用いた実験の際に硫酸基転移酵素の活性増加が偽妊娠誘導時のホルモン刺激に直ちに応答せず、4日間の期間をおいて後に発現される現象と一致していた。同様の現象は培養ケラチレサイトを用いても観察された。コレステロール硫酸の組織分布を調べると、消化管や腎などの上皮細胞に限定しており、高い合成と分解酵素活性を持ち合成の前駆体であるコレステロールを多量に含む肝には全く検出できなかった。その機能に関しても研究を行った。特に皮層においては、ケラチンの合成に関与するトランスグルタミナーゼとの関係をマウス皮層の発達に伴う活性変化で比較すると、コレステロール硫酸の蓄積後にトランスグルタミナーゼが発現されており、両者の密接な関わりが予想された。事実、コレステロール硫酸は蛋白質リン酸化酵素7を特異的に活性化し、トランスグルタミナーゼの誘導に関係していることが示された。
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