研究概要 |
原核細胞は染色体を封じ込めている核膜や、細胞分裂の時に現れて染色体を二つの娘細胞に分離する紡錘糸の存在しないことで、真核細胞と決定的に異なると言われてきた。研究代表者らは、この世間の通説に反し、原核生物と真核生物との間に細胞骨格構造や細胞分裂の形式に関して或る極めて顕著な共通点の存在することを見いだし、原核生物と真核生物の二つの生物界の間の間隙を埋めることに大きな貢献をはたした(V.Norris et al.,J.theor.Biology 1994)。研究代表者らの研究は、次の2つの方向で行われた。 1.研究代表者らは原核生物である大腸菌の細胞の中に、真核生物の細胞分裂の際の紡錘糸の原型を思わせるような、細胞質を貫通する強靱なタンパク質構造体を見いだし、そのタンパク質の構造遺伝子と思われるcafA遺伝子も明らかにした(岡田吉央他、J.Bacteriology 1994)。cafA欠損変異株は42-44℃の高温度および7%のKClに対して感受性をしめし、cafA遺伝子の産生するCafAタンパク質の細胞増殖およびシグナル伝達に機能する可能性を示唆した。 2 一方、研究代表者らは原核生物である細菌類と、真核生物である酵母菌、植物が共通の音波と思われる信号によって同種細胞、異種細胞間で交信し、互いの増殖を制御しているという全く新しい事実を発見した(松橋通生他、J.Bacteriology 1995)。この増殖制御は高温及び高KCl濃度において顕著であった。この新しい細胞間シグナル伝達の機構について現在研究が進められている。
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