本研究の目的は、遺伝性スクロース不耐症の原因である異常な小腸刷子縁膜スクラーゼ・イソマルターゼ複合体の生合成経路を、本複合体に遺伝的変異を示す実験動物スンクスの変異株および個体を用いて免疫化学的形態学的に解析することにあった。 まず、スンクスのスクラーゼ遺伝子に関してヘテロな株(Jic:SUN)のホモ個体とスクラーゼ活性欠損が遺伝的に固定された株(Nem:MI)の小腸刷子縁膜から、それぞれ、正常スクラーゼ・イソマルターゼ複合体とスクラーゼフリーのイソマルターゼを精製した。分子質量が、スクラーゼが116kDa、イソマルチ-ゼが96kDaである、複合体のマルターゼ活性は殆どスクラーゼに起因する、などの諸性質を明らかにした。 正常複合体の精製標品でウサギを免疫して抗体を得、ウサギ酵素に対してヤギで作成した既得の抗体と共に、スンクス酵素との抗原抗体反応の免疫化学的性質を調べた。単離刷子縁膜および可溶化酵素の抗体による沈降性の比較から、ヘテロのスンクスでは、スクラーゼ・イソマルターゼ複合体とスクラーゼフリーのイソマルターゼとが同じ微絨毛に存在すること、即ち、同じ細胞内で両者が合成され、刷子縁膜に輸送されることが分かった。他方、膜結合状態の複合体は、正常体でも変異体でも抗体との反応が部分的に妨害されることが分かった。これは、膜結合蛋白質の生合成経路を免疫形態学的に追跡せんとする本研究にとっては大きな障碍であり、この問題を解決することが今後の課題である。
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