ジヒドロリポアミド・サクシニル転移酵素はα-ケトグルタル酸脱水素酵素複合体(α-KGDH)を構成する一成分酵素である。α-KGDHは生物のエネルギー生産系のなかで重要な役割を果たす。生体エネルギーの生産・調節機構の問題は生命の中心的な課題であるが、最近、生体エネルギーの生産は脳の老化、記憶、神経細胞死、神経伝達等と密接な関係があることが示唆され、生命の高次機能発現と言う新たな課題に発展しつつある。 本研究の目的はヒト・ジヒドロリポアミド・サクシニル転移酵素の遺伝子及び偽遺伝子の単離と構造解析である。この目的のためにまず、ヒト・ジヒドロリポアミド・サクシニル転移酵素のcDNAを単離し、その構造を明らかにした。cDNAを使用して、ヒト染色体マッピングを行なったところ、ジヒドロリポアミド・サクシニル転移酵素の遺伝子は14q24.2-q24.3に存在し、偽遺伝子は1p31に存在することが発見された。この部位には早発型の家族性アルツハイマー病の原因遺伝子が存在することが知られているが、その原因遺伝子は同定されていない。 更に、本研究のなかでヒト・ジヒドロリポアミド・サクシニル転移酵素のcDNAを用いてヒト・ジヒドロリポアミド・サクシニル転移酵素の遺伝子及び偽遺伝子が単離され、それらの全構造が解明された。現在のところ、ジヒドロリポアミド・サクシニル転移酵素はアルツハイマー病の最も有望な原因遺伝子であると注目されている。この構造に関する情報をもとにして、近い将来、ジヒドロリポアミド・サクシニル転移酵素とアルツハイマー病との関わりが解明されるものと期待される。
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