研究概要 |
生理活性ペプチドのC末端アミド基は、C端にグリシン残基を持つペプチドの直接の前駆体に、α-アミド化酵素(アミド化酵素)が作用して生成される。我々は、この反応が2段階の酵素反応であり、第1の酵素EIによって末端グリシンのα-炭素が水酸化されたα-ヒドロキシグリシン中間体が生成され、第2の酵素E2によってこの中間体がアミド化ペプチドとグリオキシル酸に解裂すること、更に酸素18同位体を用いて、第1の反応がモノオキシゲナーゼであることを証明した。その結果この酵素反応について、基質(D-Tyr-Val-Gly)→α-炭素ラジカルα-水酸化グリシン中間体を経る反応気候を提唱した。本年度は、水酸化機構の詳細を知るために、E1(ペプチヂルグリシンヒドロキシラーゼ)によってD-Tyr-Val-Glyからα-水酸化中間体が生成されるとき、α-炭素ラジカルを経るかどうかを^3Hラベル基質を用いて検討し、(重水素基質についての実験は昨年度終了した)、更にこの酵素の機能と構造の関係を明らかにするために、両酵素活性を持つ前駆体蛋白をコードするベクターを構築し、培養細胞で発現させ結晶化を試みる計画をたてた。D-Tyr-Val-Gly-2,2-^3H_2をN-Boc-D-Tyr、L-Val-benzyl ester、Gly-2,2-^3H_2を原料としてペプチド合成を行なった。現在D-Tyr-Val-Gly-^3H_2を用いて水酸化反応のキネティクスを行なっている。一方、ラット心房のcDNAライブラリーを作製し、カエルのEl cDNAをプローブとして、前駆体蛋白をコードしているcDNAを検索している。なお、当初の研究計画には含まれていなかったが、病体生理的な観点から各種神経疾患患者の髄液アミド化酵素活性を測定したところ、多発性硬化症(MS)では他疾患に比べ髄液の活性が有意に高く、しかも病態の活動期と一致してアミド化活性が上昇し緩解期には低下していることが知られた。このことは、髄液アミド化活性が中枢神経内の生理的・病的状態で変化するダイナミックな指標となり得ることを示唆する。
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