研究概要 |
我々は生理活性ペプチドのC末端アミド化反応について、この反応が2段階の反応であり、第1の酵素E1によって末端グリシンのα-炭素が水酸化された中間体が生成され、次に第2の酵素E2によってこの中間体がアミド化ペプチドとグリオキシル酸に解裂することを明らかにし、グリシンの水酸化反応について基質(D-Tyr-Val-Gly)→α-炭素ラジカル中間体→α-水酸化グリシン中間体を経る反応機構を提唱した。本申請研究は、(1)E1によって基質からα-水酸化中間体が生成されるときグリシンのα-炭素ラジカルを経るかどうかを、同位体効果を調べることによって明かにすること、(2)本酵素の機能と構造の関係を明らかにするために、両酵素活性を持つ前駆体蛋白の全長を発現するベクターを構築し、大量に発現させ結晶化を試みるために立案された。その結果以下のことが明らかにされた。(1)グリシンの水酸化反応は、アスコルビン酸とD-Tyr-Val-GlyについてPing-Pong Bi Bi反応である。D-Tyr-Val-Gly-2,2-d_2を調製しその同位体効果を検討した結果、V/K項、Vmaxについて、1.2程度の同位体効果が得られた。このデータは、Kizarらが報告している5.7という同位体効果とは大きな隔たりがある。そこで真の同位体効果を明らかにするために、D-Tyr-Val-Gly-2,2-^3H_2を調製し、更に水酸化反応のキネティクスを検討している。(2)ラット心房のcDNAライブラリーを作製した。現在カエルのE1 cDNAをプローブとして、前駆体蛋白をコードしているcDNAを検索している。(3)病態生理的な観点から各種神経疾患患者の髄液アミド化酵素活性を測定したところ、多発性硬化症(MS)では他疾患に比べ髄液の活性が有意に高く、しかも病態の活動期と一致してアミド化活性が上昇し緩解期には低下していることが知られた。このことは、髄液アミド化活性が中枢神経内の生理的・病的状態で変化するダイナミックな指標となり得ることを示唆する。
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