研究概要 |
ステロイドホルモンは、高等動物の正常な生命活動の維持に必須の重要なホルモンであり、その生合成の異常は直ちに重症の疾患を引き起こす。ミトコンドリアのステロイドホルモン合成の律速段階は、コレステロール側鎖切断反応であり、先天性副腎リポイド過形成は、これを触媒するP-450scc酵素の欠落によるとされていたが、共同研究者の安田らのcDNA解析では異常がなく、タンパク質も発現されていることがわかった。また、アメリカのミラーらはAR、ADにも異常がないことを明らかにしている。このことから、本症例において、コレステロール側鎖切断活性が消失する理由は不明であり、本研究は、AR、AD,P-45-sccの相互作用に異常がないかを酵素化学の立場から解明しようとするものである。昨年度の検討から、先天性副腎リポイド過形成症ヒト精巣ミトコンドリアのAR、AD,P-45osccレベルは、ブロッティング分析でかわらないことがわかった。しかしながら、コレステロール側鎖切断酵素活性は、本症では、正常の35%であり、決して活性は0ではないこともわかった。本年度、本症精巣ミトコンドリアのリン脂質について詳しく分析した。正常ヒト精巣ミトコンドリアのリン脂質/タンパク質ha0.8422であるのに対して、患者の値は0.298であり、ミトコンドリアのリン脂質の割合が異常に低くなっていることがわかった。次に、抽出したリン脂質をHPLCで分離し、サブクラスの分析を行った。この結果、患者の場合、リゾレシチンの割合が正常のヒトに比べて約7倍増加していることがわかった。リゾレシチンは、ミトコンドリアのコレステロール側鎖切断反応を著しく阻害することが知られている。我々も確立したin vitro系アッセイ法でリゾレシチンの阻害効果を確かめた。以上のことから、先天性副腎リポイド過形成症の原因としてリゾレシチンとの関連が初めて示唆された。
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