研究概要 |
クロコウジカビが分泌する酸性プロテアーゼAは,アスパラギン酸プロテアーゼに近縁の酵素だと考えられるが、従来知られているアスパラギン酸プロテアーゼとは種々の点で異なる全く新しいタイプのプロテアーゼであり,未知の新しい3次元構造モチーフを含んでいる可能性が高い.蛋白質の3次元構造を決定する方法としては,X線結晶構造解析法と,多次元NMR法がある.これら両法は,X線結晶構造解析では分子全体の精密な3次元構造が明らかになるのに対して,NMR法では溶液中のゆらぎや部分構造を明らかにするのにも適している,などそれぞれ特長を持っている.以上の点を踏まえて,X線結晶構造解析法と多次元NMR法の両法を合わせ適用することによって,未知の立体構造モチーフを含むと考えられる酸性プロテアーゼAならびにその酵素・基質複合体の精密3次元構造,及びそのゆらぎの全貌を詳細に解明することを目指して本研究を進めている.平成5年度には以下の研究を行った.(1)C-13,N-15ラベル標品の調製-3次元NMR測定に必要なN-15均一ラベル標品ならびに4次元NMR測定に必要なC-13,N-15二重ラベル標品を得るために,これらの同位体を含む培地でカビを培養してプロテアーゼAを得る最適条件を種々検討した結果,蛋白質を窒素源とした場合のみプロテアーゼAが産生されることがわかった.現在アイソトープラベルした蛋白質を窒素源としてプロテアーゼAを調製している.(2)2次元NMRスペクトル測定と連鎖帰属(sequential assignment)-3種類の2次元NMRスペクトル(化学結合情報のDQF-COSYとHOHAHA,空間距離情報のNOESY)を測定した。2次元スペクトルはシグナルが全体に分散しているものの分子量が大きく,シグナルの帰属は現在進んでいない.(3)重原子同型置換結晶の作成と回折強度データの測定-新規の立体構造を持つタンパク質の3次元構造を解く唯一の道である重原子同型置換体の作成を行い,重原子同型置換体を得て回折強度データを収集した.現在構造解析を進めている.
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