研究概要 |
我々は熱平衡状態にある分子系の光吸収スペクトルをフーリエ変換すると励起状態のフランク・コンドン状態からスタートして時間と共に進行する振動の波束を追いかける方法を開拓してきた。 本年度はバクテリオロドプシンの吸収スペクトルを273,233,193,133,78Kの5つの温度で測定し、それぞれのフーリエ変換(FTOA)による励起状態ダイナミクスの解析を行った。その結果、特に80fs以内の短時間域で、振動の波束の相関関数が温度によって著しく影響を受けることが明らかになった。すなわち、常温域では深い谷間になっている27fsのところに低温域ではピークとなって生長してくることを見出した。このように非常に短い時間域の運動は超高速であり、それが温度によって影響を受けることは孤立した有機分子ではあり得ないことである。蛋白質の運動が温度を下げることによって急激に変化し、それがレチナールの光異性化反応に大きく影響したものと考えられる。さらにこの解析に於いて、常温域では60fsの周期の時間相関関数のピークの繰り返しが見られるが、低温域では27fsの周期のピークの繰り返しが見られる。このピーク間融の変化がレチナール発色団の光異性化反応過程の変化を表していると思われるが、結論は今後の詳しい解析によらなければならない。そのために光異性化反応をブロックするレチナール・アナログを用いてFTOAの解析を行うのがよいと思われる。これは次年度の課題である。
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