研究概要 |
膜を貫通している蛋白質の構造は、主としてalpha-ヘリックスからなるペプチドセグメントが、寄り集まって成り立っていると考えられている。しかし、それらのalpha-ヘリックスセグメントが、いかにして膜を貫通するか、又、膜を貫通する部分は蛋白質のどの部分であるかを評価することは、現在推測の域に有る。そこで、より正確な膜貫通セグメントを評価するため、カリウムチャンネル活性を持つ膜蛋白質Iskの膜貫通セグメントをモデルとして膜貫通に果たす各アミノ酸の役割を、脂質二分子膜の相互作用を通じて調べることとした。初年度において、膜貫通セグメントやそのセグメント構造の安定化要因の評価をおこなうための、予備的実験として以下のことを行った。膜貫通セグメントのなかに多く見られるアミノ酸を基に、4種類の疎水性ペプチドZ-(L-Leu)n-OEt,Z-(L-Val)n-OEt,Z-(L-Ala)n-OEt,Z-(L-Phe)n-OEt(n=5-7)を選び、溶媒中とミセル中及び二分子膜中での構造変化を、CDスペクトルを測定することによって解析し、さらに膜中ペプチドが膜構造に及ぼしている影響を、示差熱走査(DSC)測定により解析したところ、beta-構造を作りやすいValにおいても、alpha-helix構造を作りやすいなどの、残基特異性がみられた。 腎臓よりえられた人Iskは約130残基空なる一回膜貫通型蛋白質と考えられている。今年度はその膜貫通部と予想される部位40残基 RDDSKLEALYILMVLGFFGFFTLGIMLSYIRSKKLEHSHD 及びそのGlyをAlaに置換した R--------A-A--A--------D をペプチド自動合成機(ミリジェン社9050型)で合成した。このペプチドの合成は、HisやMetといったトラブルを起こしやすいアミノ酸を含んでいたため精製が困難であったため収量が悪かったが、目的物を純度良く得ることが出来た。一般的に難溶性と考えられている膜貫通セグメントが溶解性の良い状態で、合成的に得られたことは、今後の色々なペプチドのデザインに有用な知見を与えた。現在、先ずこのモデルペプチドの脂質二分子膜への貫通状態をCD、NMR,又チャンネル形成能を平面膜法などで調べている。これをもとに各アミノ酸の膜貫通に対するパラメーターを決めることとする。
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