真核生物の遺伝子発現に必須な過程であるスプライシングにおいて、近年その重要性が示唆されつつあるRNAヘリカーゼ遺伝子を哺乳類から分離するために、これまでに知られている酵母などの相同遺伝子の配列を検討し、保存性が高いと思われる領域について種々の合成DNAプライマーを作製した。これらのプライマーを用いて、ヒト培養細胞であるHeLa細胞のメッセンジャーRNAを鋳型として、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行った結果、酵母遺伝子と高い相同性を持ったDNA断片を得ることができた。この断片をプローブにして、HeLa細胞のcDNAライブラリーをスクリーニングした結果、複数の異なるクローンを得ることができ、そのうち一つについて全塩基配列を決定した。このヒトRNAヘリカーゼ遺伝子は酵母のスプライシングに関係するヘリカーゼ遺伝子PRP22と非常によく似ていることが判明し、予想通りこの遺伝子を用いて酵母の温度感受性変異株を部分的に相補することも明らかになった。これらの結果から、酵母の系で知られていたヘリカーゼが高等真核生物の系でも同様に存在すること、また高等真核生物においては複数の互いに相同性の高いRNAヘリカーゼがスプライシング反応に関与していることが示唆された。今後は、複数のヘリカーゼが高等真核生物のスプライシング反応においてどのような機能分担を行っているのかについて、別のヒトRNAヘリカーゼ遺伝子の配列を明らかにし、それぞれに対する抗体を作製し、in vitroスプライシング系などを利用して解析していくことが課題となると考えている。
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