ヒトのepsilon-グロビン遺伝子は発生時に見られるbeta-グロビン遺伝子群のスウィッチングの発現制御に重要な領域を5′上流に持つ。そこで発現制御ネットワークを調べる為、サイレンサーを含む5′上流域のDNA構造の特異性に焦点をあて実験を行った。 1.遺伝子発現に重要な働きを行うとされているS1ヌクレアーゼ高感受性部位(HS)を-1.4kb〜-2.0kb領域について特定した。HSは-1.87kbと-1.58kb域の2箇所にマップされ、前者では二重鎖のうちピリミジン配列にのみS1ヌクレアーゼが反応する事から三重鎖構造をとっている事が示唆された。後者では両者の鎖ともS1ヌクレアーゼに反応し三重鎖を含む複合的な構造か、DNAのslippage構造をとっていると考えられた。 2.DNAの特殊構造の一つとしてDNAの折れ曲がりに注目し解析したところ、7kb領域にわたり約680bp毎に合計10箇所のDNA折れ曲がり部位が特定された。折れ曲がり構造は転写開始起点近傍、二つのAluファミリー配列開始部位付近、サイレンサー領域内、ポリAシグナル近辺等に存在する事を同定しえた。非常に規則性をもって折れ曲がり構造が存在している事から、クロマチンの構造的制約に基づくシス制御への着眼からクロマチン折りたたみコードがDNAの折れ曲がり部位として塩基配列上に記されている事、そしてその折れ曲がり構造は転写制御としても重要な役割を果たしているという事が示唆された。
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