ヒトのε-グロビン遺伝子はβ-鎖グロビン遺伝子群の発現制御に重要な領域を5'上流域に持つ。そこで、発現制御ネットワークを調べる為、当初はε-グロビン遺伝子のサイレンサーを中心とした実験計画をたてたが、以後サイレンサー領域に限定せずに5'上流域、約-2kb、のDNA構造の特異性に焦点をあてて実験をすすめた。その際得られた興味深い知見から、実験対象領域をさらに拡大しDNA構造の特異性を検索した。平成6年度までの結果では、転写開始点5'上流域約-4.5kbから3'下流域約2.5kbにわたる領域をcircularpermutation法によりDNAの折れ曲がりについて注目して解析し、全領域にわたり682.5±132.0bp毎に規則正しく折れ曲がり部位が存在する知見を得た。これは、170bp/nucleosomeで約4nucleosome毎に折れ曲がり部位が存在する事になる。これらの折れ曲がり部位はすべて翻訳コードを除く箇所にのみ存在する事から、nucleosome phasingのシグナルとして機能している事が推測された。またさらに折れ曲がり部位は、高度なソレノイド構造をとる際にも正確に折り畳む為のシグナルにも使われているのではないかと推測された。折れ曲がり部位は、転写開始点及び終止点近傍やサイレンサー領域内等に同定された事からトランス制御因子の結合領域として転写活性に影響していると思われた。さらに最近は、β鎖遺伝子群のうち最も後期に発現するβ-グロビン遺伝子領域を4.4kbにわたりDNA折れ曲がり部位を同定したところ、折れ曲がり部位は最も初期に発現するε-グロビン遺伝子と一致しており、折れ曲がり部位が約700bpあるいはその倍数にピークを持つ周期性を持って遺伝子群全座にわたり存在し、グロビン遺伝子発現の進化過程において保存されている事が示唆された。
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