当初の本研究課題は、我々が同定したヒト・ε-グロビン遺伝子のサイレンサー・シス制御因子に焦点を当てグロビン遺伝子スウッチング機構について調べる事を目的としていた。しかし実験をすすめるに従い、発生段階に従った遺伝子発現のスウッチングという発現制御ネットワークをみる為には、ε-グロビン遺伝子サイレンサー部位に限定せず、さらに領域を広げる必要性を感じ、平成6年度後半には、β鎖遺伝子群のうち最も後期に発現するβ-グロビン遺伝子領域の特殊DNA構造(殊に折れ曲がりDNA)を検索し、折れ曲がり部位を同定した。ε-及びβ-グロビン遺伝子両遺伝子領域の比較によりDNA折れ曲がり部位は周期性をもって存在しており、しかもその周期性は進化上保存されている事が示唆され、J.Biol.Chem.に第二報として報告した。平成7年度はさらにそれらの知見に基づいて、他のβグロビン遺伝子群についても解析を行った。約13.5kbにわたる(Gγ-Aγ-ψβ-δ-β)のすべての遺伝子のプロモーター領域にはDNAの折れ曲がり構造が存在し、しかもヒトβ-とマウスβmaj-グロビン遺伝子両者間でも折れ曲がり部位は一致する事からこれらの部位はβグロビンファミリーとして保存されている事が解った。しかしこの規則性にも一部に乱れがあり、進化上重複遺伝子であるGγとAγの連結部位及び第2イントロンには規則性が失われていた。この事から、ゲノムDNAの構築体系においては、ヌクレオソーム位相あるいはクロマチン折りたたみのシグナルとしてのDNA折れ曲がり部位は、ゲノムの転位や遺伝子発現といったランドマークよりも劣位にランクされていると思われた。さらに現在は、ヒト・グロビン遺伝子スウッチング機序において最も重要な制御因子といわれているLocus Control Region(LCR)領域の特殊DNA構造の同定もすすんでいる。
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