研究概要 |
本一般研究(C)では,大腸菌の細胞分裂隔壁を形成に働く酵素であるペニシリン結合蛋白質3(penicillin‐binding protein 3,PBP3)に注目し,その構造遺伝子ftsIの発現様式・PBP3に特異的なC未端プロセシングによる活性調節の可能性を調べ,また,PBP3分子内の機能ドメイン構造,殊に他の細胞分裂因子との複合体の形成に働くドメインの同定をめざしている。 1.ftsI遺伝子の発現に必須な1.9kb上流のDNA領域を40bpにまで限定し,これが転写プロモーター活性を持つことを確認した。 2.染色体上のftsI遺伝子を欠失させ,プラスミド上のftsI遺伝子の発現を抑えると,C末端プロセシング酵素の構造遺伝子prcに欠損のある株ではprc^+株より隔壁形成の停止が遅れるらしいことから,前駆体PBP3も活性があり,むしろ成熟体より安定である可能性を示した。一方,一次遺伝子産物として前駆体を作らず成熟体PBP3のみを作るプラスミドもftsI欠失変異を相補することから,成熟体も活性があり,C末端プロセシングはPBP3の機能発現に本質的には必須ではないことがわかった。 3.酵素活性中心のセリン残基をアラニンに置換したftsI遺伝子が野生型に対して優性の致死効果を示すのは,この変異PBP3が複合体形成能を持ち,不活性の複合体を作るためと考え,複合体形成に働くドメインを同定するため,優性致死効果を打消す遺伝子内サプレッサー変異の分離を試みて,候補となるものを幾つか得た。 4.当初の計画にはなかったが,様々な長さの細胞が繋がって鎖状になるenvC変異株として知られるPM61株がprc遺伝子にも欠損を持つことを発見したことから研究を始め,隔壁形成異常を生じるにはenvC変異だけでは十分でなく,もう一つその近傍の変異envFも必要であることを見出した。
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