研究概要 |
本研究では,大腸菌の細胞分裂隔壁の形成に働く酵素であるペニシリン結合蛋白質3(penicillin-binding protein 3,PBP3)の遺伝子ftsIの発現様式・PBP3分子内の他の細胞分裂因子との複合体形成に働くドメイン構造・PBP3のC末端プロセシングを行なうPrcプロテアーゼの働き・隔壁形成位置と細胞分離に異常を生じるenvC変異などを解析し,隔壁形成の制御機構を探ることをめざしている. 1.ftsI遺伝子の上流1.9kbにあるプロモーターがftsIとその前後約10kbの領域にある細胞分裂や細胞壁合成に働く9遺伝子の発現に必要であることを示した. 2.酵素活性中心にアミノ酸置換をもつPBP3が野生型に対して優性の致死効果を示すのは,変異PBP3が複合体形成能は保っているためと考え,温度依存的に致死効果を打消す遺伝子内サプレッサー変異を分離した.更にそれを正常な活性中心と組合わせ,高温では正常に機能しない新規な変異ftsI遺伝子を作製した. 3.Prcプロテアーゼの欠失変異株は低張条件で高温感受性であり,浸透圧や温度のストレスに対する防禦に重要であるらしい.この高温感受性をサプレスする変異sprを多数分離した.すべてftsIではなく,染色体地図上48分に位置していた. 4.spr変異株はprc^+にすると再び低張条件で高温感受性だった.48分付近の遺伝子でspr変異株を高温耐性とするものをクローン化したが,spr遺伝子ではなく,約1分離れた位置にマップされる多重コピーサプレッサーであった.この遺伝子はPBP3との相互作用も示唆されているPBP7をコードしていた. 5.envC遺伝子をクローン化した.染色体上のenvC遺伝子を破壊し,増殖には不可欠ではないが,envC61変異と同様な細胞形態異常を引き起こすことを示した.またenvC61変異の塩基置換を決定した.
|