本研究はこれまでに同定した、核タンパク質輸送を担う細胞質因子の一つであるhsc70の他に、輸送に関与する細胞質及び核膜因子の同定とその機能解析を通し、核タンパク質輸送の分子機構を明かにすることを目的とする。輸送を担う細胞質因子の同定は、digitonin処理で作製したsemi-intact cellを用いたin vitro核タンパク質輸送実験系を導入し、輸送に必要な粗細胞質抽出液を分画し、輸送活性を追跡することにより行なった。粗細胞質抽出液をイオン交換クロマトグラフィーで分画した結果、輸送活性を相補する、低塩濃度で溶出される分画Iと、高塩濃度で溶出される分画IIを得た。輸送活性には両方の分画が必要であり、両方の分画にはhsc70以外の、輸送に必要な因子が含まれていることも判明した。semi-intact cellを核タンパク質と分画II存在下で反応させると、系に加えた核タンパク質はATP非存在下、4℃の条件で核膜表面に結合するが、更に核内に核タンパク質を集積させるためには、分画Iを加え、ATP存在下、30℃でインキュベーションする必要があった。このことから、分画IIは核タンパク質の核膜孔への結合ステップを担い、分画Iは、それに続く核膜孔通過反応を担うことが判った。分画IIと核タンパク質を反応させると約500kDaの安定なcomplexを形成し、単離したこのcomplexそのもが核膜孔へのターゲッテイング活性をもつことがわかった。単離したcomplexは、輸送される核タンパク質と4つの細胞質因子から形成されていることが確認された。 核タンパク質が、核膜孔へターゲッテイングするために、細胞質で単離可能な安定なcomplexを形成することが初めて確認されたのと同時に、その構成成分が同定できた研究成果は大きい。今後、単離したcomplexの各構成蛋白を精製し、その構造を決定する。更に、ターゲッテイングcomplexが結合する核膜孔構成タンパク質を同定する。
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