本研究ではこれまでに同定した、核タンパク質輸送を担う細胞質因子の一つであるhsc70の他に、輸送に関与する細胞質因子の同定とその機能解析を通して、核タンパク質輸送の分子機構を明きらかにすることを目的とする。輸送を担う細胞質因子の同定は、digitonin処理で作製したsemi-intact cellを用いたin vitro核タンパク質輸送実験系を導入し、輸送に必要な細胞質粗抽出液(cytosol)を分画し、輸送活性を追跡することにより行った。cytosolを分画することにより、SV40T抗原の核局在化シグナル(NLS)を結合したウシ血清アルブミン(T-BSA)を核膜孔へ結合させる分画を得た。この分画とインキュベーションしたT-BSAは分画中の因子とNLSに依存して結合して、分子量約500kDaの安定な複合体を形成することが判明した。この複合体をゲル濾過クロマトグラフィーで単離すると、この複合体自身が核膜孔へターゲットすることがわかった。T-BSAに結合したcytosol中の因子を調べたところ、分子量54、56、66、90kDaの4つのタンパク質が同定された。複合体の再構成実験から、4つの構成因子の中の54kDaと90kDaの2つの因子がターゲッティング活性に必要であることがわかった。ターゲッティング活性に必要なこの2つの因子のcDNAのクローニングをすでに終えており、それぞれのcDNAクローンから発現させたrecombinantタンパク質がT-BSAの核膜孔ターゲッティングに必要十分の活性をもつことも確認している。核膜孔へターゲットする複合体とその構成因子の同定は、核タンパク質輸送の基本的pathwayの分子機構の全容を明かにする上で、重要な足がかりになる。当初の研究目的は十分に達成できたと思われる。
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