研究概要 |
本年度は、好中球のNADPH oxidase(O_2^-生成酵素)の活性化に対するスペルミンの効果について検討した。スペルミンはSDS(ドデシル硫酸ナトリウム)による酵素の無細胞活性化を強く阻害することが明かになった(IC_<50>=18μM)。しかもこのような阻害は他の細胞性ポリアミン(スペルミジン、プトレッシンなど)ではほとんど見られなかった。また、スペルミンを酵素活性化後に加えた場合には阻害が見られないこと、酵素のNADPHに対するK_mはスペルミンにより影響されないことなどから、スペルミンは酵素そのものではなく活性化のステップを阻害するという事実が明かになった。さらに阻害のメカニズムを検討するために、加える細胞質ゾル、形質膜、SDSの量を変えて検討を行った結果、細胞質ゾルの量を増やした場合、スペルミンによる阻害が緩和されることがわかった。そこで細胞質ゾル中に阻害緩和因子が含まれていると考え検討した結果、これがタンパク性の因子であることが明かになった。またこれに関連して、スペルミンによる阻害はセミリコンビナント系(細胞質ゾルの代わりに遺伝子工学で発現させた細胞質因子[p47,p67,およびrac]を加えたもの)に対してもほぼ同様の阻害効果を示したことから(IC_<50>=15μM)、スペルミンはこれらの細胞質因子のどれかに作用していると思われた。そこで前述の無細胞活性化系にこれらの成分蛋白を一種ずつ加えてみたところ、p47またはracを加えた時にスペルミンによる阻害が緩和される事がわかった。したがって、スペルミンはこれらの細胞質因子に作用することによりNADPH oxidaseの複合体形成を妨げるものと考えられた。スペルミンは好中球細胞内にかなりの濃度で存在することから、生理的条件でスペルミンがNADPH oxidaseの活性化を制御している可能性が示唆された。
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