研究概要 |
本年度は,NADPH oxidase(O_2生成酵素)の活性化に対するスペルミンの効果について,そのメカニズムについて検討した。昨年度の研究でスペルミンがSDS(ドデシル硫酸ナトリウム)による酵素の無細胞活性化を強く阻害すること,またスペルミンの作用する標的が細胞質ゾル由来のタンパク成分であることが明らかになった。そこで本年は,そのタンパク成分が何であるかを明かにするため,より単純化した系-セミリコンビナント系-を用いて検討した。セミリコンビナント系とは無細胞活性化において細胞質ゾルの代わりに遺伝子工学で発現させた細胞質因子(p47,p67,およびrac)を加えて酵素を形成させるものである。セミリコンビナント系でスペルミンは無細胞系とほぼ同様の強さでNADPH oxidaseを阻害した(IC_<50>=13μM)。このことはスペルミンの標的が酵素のサブユニット蛋白であることを示すものであった。そこでこれら個々のサブユニットを予めスペルミンで処理してから,セミリコンビナント活性化を行ってみたところ,p67が最も影響を受けSDSによる活性化の程度は著しく低下した(IC_<50>は前処理濃度で0.3mM)。次いでp47が影響を受け(IC_<50>=1.1mM),racは殆ど影響を受けなかった。このことからスペルミンはサブユニットのうちp67およびp47に主に作用することが明かになった。一方racをGTP-γ-Sで活性化する前にスペルミンと処理したところ活性化は顕著に阻害された。これらのことから,スペルミンはこれらの酵素サブユニットに作用することでNADPH oxidase複合体の形成を妨げるものと考えられた。なおracの活性化をスペルミンが阻害するという知見はGタンパクに対するスペルミンの新しい作用として興味深い。好中球内のポリアミンを定量してみたところ,細胞あたり0.46mMという高い濃度で存在することが明かになった。これらの結果からスペルミンは好中球細胞内でNADPH oxidaseの活性化を制御している可能性が示唆された。
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