研究概要 |
本研究では、複眼の主細胞である光受容細胞の機能分化と形態維持を中心に解析を行った。まず、液体ヘリウムによる急速凍結法によって、網膜を生きた状態に最も近い条件で固定し、視細胞の構造と視物質欠損状態における異常を解析した。この方法によって、光受容膜上で視物質が螺旋配列をとることが明かとなり、光受容の特性にこのことが深く関与していることがわかった。次に、光情報変換の中心的な機能分子群である、ホスファチジルイノシトール代謝に関与する蛋白質の局在と突然変異による異常を解析した。その結果ジアシルグリセロールキナーゼ(rdgA protein),CDP-ジアルグルセロールシンターゼ(CDS)および、ホスファチジルイノシトール転移蛋白質(rdgB protein)が、光受容部に隣接する滑面小胞体subrhabdomeric cistemae(SRC)上に局在することが明かになった。これらの蛋白質の遺伝子突然変異体ではSRCが崩壊し、その結果光受容部が変性することがわかった。SRCは、イノリトール三燐酸感受性のカルシルムプールであることが知られており、光情報変換系において、イノシトール三燐酸を介する情報伝達系とホスファチジルイノシトール再生系が同一の細胞内構造上に集合していることにより、光情報変換過程が常に作動出来る仕組みになっていることがわかった。このような情報伝達系の分子群の集合は、光情報変換過程のみでなく、他の細胞系にもあてはまると考えられる。ホスファチジルイノシトール系以外の情報伝達系でも、機能分子群がアダプター蛋白質によって会合する例や、細胞骨格系を中心に機能分子群が集合する例が発見されつつあり、一つの機能系を担う分子群のトポロジーが機能発現に果す役割が今後ますます注目されると考えられる。このような局面を解析するうえで、分子生物学的手法の応用が容易なショウジョウバエを用いた研究が大きく役立つと考えられる。
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