これまで私は専らポリエチレングリコールにより集団的に作った融合体の中から、減数分裂の進行が互いにずれたヘテロのペアを選んで観察する方法を採っており、本年度の計画も当初は同法による融合を前提にしていた。昨年3月、高周波と直流のパルスを組み合わせる条件の記載された、ヒトデ卵融合実験の論文に接した(清本・白井)。この方法は、予め特定の卵のペアを並べておいて直視下の融合を可能にするので、急遽この方法を試すため、高周波と直流パルスを相次いで発生する電子回路の自作を4月から始めた。交付申請を提出した後の7月にいたり、自作の回路からのパルスによってヒトデの未成熟卵が融合した。8月には、減数分裂の時期がずれている卵を融合させる条件が大体わかったので、かつてポリエチレングリコール法で見つけてある結果、即ち「減数分裂の進行が1回分だけずれているヘテロペアでは、遅れている側が第2極体を放出しないまま前核化する」という結果を電気パルスによるペアで追認しようとしたが、秋のヒトデのシーズン(10-12月)では不幸にして透明度の悪い卵しか使えず、極体放出の正確なタイミングが取れなかった。そこで交付申請書の中で3番目に掲げた計画、即ち「未成熟卵と前核卵を融合すると、未成熟卵の卵核胞・前核卵の前核とが共に消失するという、Guerrier & Neantの、奇妙であるが興味ある報告の追試」のためにパルス融合法を使った。第2極体が出て間もない卵を未成熟卵と融合させた11ペアの総てで、融合後に一旦生じた前核が未受精卵由来の卵核胞と共に確かに消失した。とは云え、彼らの報告の言葉通りに、既に前核を形成した「前核卵」と未成熟卵を融合した5ペアでは核にいかなる変化も見られなかった。第2極体放出から前核形成までの間のどこでこのような転換が起こるのかについて、細かいタイミングでの観察をするまでにはいたらなかった。
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