本年度は、両生類アカハライモリ(Cynops pyrrhogaster)精子からアフリカツメガエル(Xenopus laevis)卵の付活を引き起こす活性分子(精子アゴニスト)の卵細胞での作用機構を電気生理学的な手法を用いて詳しく調べた。精子アゴニストは卵細胞膜上のNaイオンチャンネルC1イオンチャンネルを開放して卵を付活するが、そのときは、Caイオンチャンネルからの外部Caイオンの流入が必要であることが、細胞膜のチャンネル分子の解析により明らかになった。さらに、細胞内では小胞体上のイノシトール3リン酸のリセプターを介して、Caイオンの伝播的上昇を誘起することが明らかになった。さらに精子がどのようにして卵付活の最初の引き金を引くかについての分子機構に関して、これまでに、この精子アゴニストを各種のクロマトグラフィーを用いて精製すると、SBAレクチンで認識される糖鎖をもち、分子量約170kDaのタンパク質分解酵素であることが分かった。この酵素は、ArgやLys残基をよく分解するセリンプロテアーゼであるが、トリプシンなどは性質が異なっている。この酵素は精子の先体部分に局在しており、活性を阻害すると卵の付活も阻害されることから、受精において生理的に重要な機能をもつことがわかる。電気泳動的にもほぼ単一のバンドが得られたので、今後、この酵素の抗体を作成したり、遺伝子を解析してツメガエル精子やその他の脊椎動物の精子での同様の精子アゴニストを検索したい。これらにより、未知の点の多かった卵の付活機構の解明の手掛かりができたと考えられる。
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