これまでにZFPOU2遺伝子の発現が胚全体で消失する際にはepiblast(胚盤葉上層:将来の外胚葉)で一過的に発現上昇が起こり、陥入したばかりのhypoblast(胚盤葉下層:将来の中・内胚葉)で発現が急速に消失することがわかった。また、過剰発現で発生異常を示す固体の多くがhypoblastの分化が起こっていないことも新たに判明した。これらの結果は、ZFPOU2遺伝子産物はhypoblastの分化に抑制的に働くことを示している。また、これまでの予想から、ZFPOU2遺伝子の発現と細胞の多分化能の保持の関係が示唆されてきたので、隣接するhypoblastとepiblastで多分化能性の違いが生じている可能性があった。そこで、本年度後半ではepiblastの多分化能喪失時期を厳密に決定して、ZFPOU2遺伝子の発現消失時期との比較を行った。細胞や組織の運命決定の時期を調べるには、注目する場所に存在する細胞や組織を別な場所に移植して、その発生運命が変更されるかどうかを調べる必要がある。我々はこの方法で、epiblast細胞の分化決定が55%-epiboly(受精後6.5時間)の時期に起こっているということを明らかにした。この時期は、陥入したhypoblast細胞の運命決定の時期と一致しており、またepiblastではZFPOU2 mRNAが一過的に上昇している時期である。従って原腸形成期でのZFPOU2遺伝子の発現は、胚葉の多分化能の維持とは直接関連づけられないことが判明した。
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