研究概要 |
筋萎縮性側索硬化症(ALS)の神経系においては,運動ニューロン以外の変性が,程度の差はあれ,ほぼ全ての症例で認められる。これらの変性が,運動ニューロンの脱落に伴って二次的に生じたのか,という点に関し,右上肢切断後長期経過した症例における頸髄灰白質の前角細胞と,中間帯の神経細胞を定量的に検討した。結果は,前角細胞の脱落に加えて,中間帯においても,介在ニューロンと考えられる中等大の神経細胞が減少していた。この所見は,ヒト脊髄では,前角細胞の脱落によって中間帯の神経細胞が二次的に変性しうることを示唆し,ALS脊髄中間帯の神経細胞の減少も,少なくとも部分的には二次的である可能性を報告した。 ALSの胸髄側角の神経細胞数は,人工呼吸管理期間が長い症例ほど,脱落の程度が強くなることを明らかにした。すなわち,ALS側角神経細胞も恐らく前角細胞と同様一次性に,しかし前角細胞より遅れて脱落し,ここではブニナ小体やスフェロイドを形成することなく変性が進行することを報告した。 グアム島のALSは古典型ALSとは異なる疾患であり,むしろ同じくグアム島に認められるパーキンソン痴呆症(PDC)と,同一原因による一つの疾患単位ではないか,と言われてきた。私共は,ALS,PDCのみならず,非ALS非PDCグアム島民に検討することにより,グアムALSは,そもそもは古典型ALSとして発症し,neurofibrillary変性がオーバーラップした疾患である可能性を指摘した。
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