今回行った研究は、WGA-HRPによる順行性-逆行性標識法を用いて頭頸部末梢神経系のニューロン同士の相互連絡を観察し、末梢神経系におけるニューロン間相互認識機構の存在を確かめてみた。ラット上頸神経節に3%WGA-HRP溶液を注入、2日後灌流固定。知覚神経節(三叉、脊髄C2-T1神経節)、交感神経節(上頸、中頸、星状神経節)、副交感神経節(毛様体、翼口蓋、耳神経節)を両側から摘出、クリオスタット連続切片をベンチジン反応で処理し、各神経節中の陽性ニューロンを探索した。 逆行性標識ニューロンが多数認められたのは、同側の中頸、星状神経節、対側の上頸、中頸、星状神経節であった。また、同側の、毛様体、翼口蓋、耳神経節、三叉や一部の脊髄神経節に陽性ニューロンが少数認められた。ニューロンの逆行性標識像は強弱様々であった。一方、対側の副交感性、知覚性神経節にはまれにしか存在しなかったから、順行性-逆行性標識ニューロンの出現には線維種差とともに左右差のあることが分かった。ところで、同側の中頸、星状神経節における陽性ニューロンはWGA-HRP注入上頸神経節への投射軸索や通過軸索が単純に逆行性に標識されたと考えなければならないから本研究の所見としては除外する必要がある。 以上、頭頸部末梢神経系におけるニューロン同士の物質の相互交換はWGA-HRP投与がなされた交感神経系では対側同士濃厚であるが、副交感性や知覚性の他種の神経線維への交換は同側といえど少なく、さらに対側への渡しはさらに弱かった。以上、頭頸部末梢神経系における神経線維同士の相互認識機構には種差、左右差のあることが結論付けられた。なお、今後は左右のニューロンを独立して順行性標識し、投射領域での両側、他種神経線維同士の接近混合と離反走行の像を観察して行く必要があることが分かった。
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