ラット胎仔(胎生18日)の大脳皮質より分化型神経細胞の一次培養を試み、神経細胞を長期生存させることが出来た。この分化型一次培養神経細胞と幼若型株化神経芽細胞より神経細胞由来の条件培養液を回収することが出来た。新生児ラットの大脳皮質よりアストログリアの一次培養を試み、安定した分化型グリア細胞の一次培養が可能であった。幼若型アストログリアとしてC6細胞株を使用した。以上のように神経細胞ならびにアストログリアの分化型および幼若型細胞の培養系での維持が可能となった。これらの細胞を用い以下の実験を行った。 神経細胞由来液性因子のグリア細胞の増殖に与える効果を、細胞数の測定ならびに3H-チミジンの取り込み実験により検索した。神経細胞の条件培養液の48時間処置により、幼若型グリア細胞では2種類の神経細胞由来条件培養液投与により有意な増殖の亢進が認められた。一方成熟型グリア細胞では増殖の促進は明らかではなくむしろ増殖抑制傾向を示していた。チミジン取り込み実験によっても幼若グリア細胞は神経細胞由来液性因子の処置により著明な取り込み亢進が見られたが、成熟グリア細胞では取り込みの亢進は見られなかった。以上のごとく神経細胞由来液性因子にはグリア細胞を増殖させる因子が含まれていることが明らかとなった。またこの増殖因子は幼若グリアに対しては増殖能を持つのに対し、成熟型に対しては増殖能を持たず、細胞の分化段階により液性因子に対する反応性が異なっていた。生体内でも神経系の発達段階や障害に対するアストログリアの反応性は、グリア細胞の分化段階の違いにより神経細胞由来の増殖因子に対し異なっていると考えられた。
|