研究概要 |
中枢神経系の最高中枢と考えられている大脳皮質の機能をボトムアップに理解するには、まず大脳皮質の内在性神経回路の構成を知らなければならない。しかし、この研究領域では、古くはGolgi染色法の所見以来、大きな進歩は見られていない。電子顕微鏡の所見も局所的な構成を明かにするには適していたが、大脳皮質の内在性回路網のアウトラインを図示する目的には不適であった。本研究の目的はガラス微小電極を用いた細胞内染色法と免疫組織化学法を用いて内在性回路構成を探ることである。大脳皮質スライスを用いてMembrane Propertiesなどの大脳皮質神経細胞の基本的な電気生理学的性質を記録、分類した後、細胞内マーカーを注入する。組織を固定後、Glutaminase、Parvalbumin、CalbindinあるいはAspartate aminotransferaseに対する抗体と免疫蛍光法を用いて、記録された細胞がグルタミン酸作動性の興奮性神経細胞であるかGABA作動性の抑制性神経細胞であるかを判定する。Glutaminaseは神経伝達物質としてのグルタミン酸を合成する酵素であり、申請者らはGlutaminase免疫活性が錐体細胞に陽性であり、GABAニューロンには陰生であることを確認した(T.kaneko and N.Mizuno,Neuroscience,vol.61,pp.839-849,1994)。一方、大脳皮質のParvalbumin、CalbindinおよびAspartate aminotransferase陽性細胞はすべてGABA含有ニューロンである。蛍光法で観察後、記録した細胞をさらに青黒色に染色し、特に神経軸索の分布に注目する。一方で他の抗体を用いて一群の化学的に識別された大脳皮質神経細胞を同一切片上で赤色に染色する。この時、特に神経細胞の樹状突起を良く染色する抗体を選ぶ(例えばSubstance P受容体(SPR)に対する抗体など)。大脳皮質のSPR陽性細胞については、それらがGABAニューロンの一部であり、さらに2群に分類されることが明らかにされている(T.kaneko et al.,Neuroscience,vol.60,pp.199-211,1994)。現在、大脳皮質VI層の錐体細胞にGlutaminase陽性と陰性の2種類があることがわかり、電気生理学的および形態学的な差異について所見をまとめつつある。
|