中枢神経系に存在するアルギニン合成系の機能的役割を解明するための手がかりを得る目的で、まず最初に、ニホンザルの中枢神経系におけるアルギニン合成系の調律酵素と考えられるアルギニノコハク酸合成酵素(ASS)の分布を免疫組織化学的に検索した。その結果、特定の神経細胞集団において、神経細胞体や樹状突起、軸索終末などが特異なASS様免疫反応陽性をしめした。このことは、ASSが、一般的な神経機能の維持というよりも神経伝達機能に関係していることを示唆した。つぎに、アルギニンは、神経伝達物質として注目されている一酸化窒素(NO)の前駆物質としての役割があることが判明しているので、これとの関連性について検討した。すなわち、ASSと一酸化窒素合成酵素(NOS)との局在について免疫組織化学法や組織化学法などで検索した。その結果、大部分の神経領域では、ASS含有神経細胞がまったく存在しないのにNOS陽性神経細胞が観察される領域が認められたり、ASSやNOSを含む神経細胞が観察されるが、両者の神経細胞の種類が異なる、との結論を得た。しかし、胸髄の側角の神経細胞のように、一部の領域では、NOS様免疫反応が観察され、さらに弱いながらもASS様免疫反応を認めた。これらの事実より、アルギニン合成系と一酸化窒素合成系とは必ずしも直接的な関連性がない領域が、少なくともニホンザルでは確認できた。すなわち、一酸化窒素の前駆物質であるアルギニンを合成するためだけに中枢神経系のアルギニン合成系が存在するのではないことを意味する。また、アルギニノコハク酸合成酵素によってつくられたアルギニノコハク酸からアルギニンを産生するアルギニノコハク酸リアーゼ(ASL)の酵素に対する抗体を用いてニホンザル中枢神経系を免疫組織化学的に検索した。この結果では、神経細胞だけでなく、neuropilにも陽性反応が認められたが、さらに特異性の高い抗体作製に取組んでいる。
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