研究概要 |
延髄縫線核から下行するセロトニン神経は脊髄の前角部において運動ニューロンとシナプスを形成する。下行性セロトニン神経はthyrotropin-releasing hormone(TRH)を含有している。TRHは脊髄小脳変性症や運動ニューロン変性疾患において減少しており、これらの治療薬として用いられている。我々は多くのセロトニンアゴニストの脊髄に対する作用を調べ、5-HT2受容体が運動ニューロンの脱分極に関与すること(1992)、およびTRHがラットの脊髄運動ニューロンを脱分極することを見出している(1982)。脊髄でのセロトニンとTRHの共存の意義に関して、運動ニューロン細胞体上でのそれらの相互作用についてのHokfeltの有名な仮説がある。すなわち、(1)TRHとセロトニンがそれらの作用を互いに強めあう、あるいは(2)TRHがセロトニン受容体に作用する、というものであるが、これらを支持する証拠はない。 本研究においては、(1)運動ニューロンを直接脱分極するTRHと5-HT2アゴニストの1-(2,5-di-methoxy-4-iodophenyl)-2-aminopropane(DOI)が作用をお互いに強めあうか否か、および(2)TRHの運動ニューロンに対する作用がセロトニンの拮抗薬で抑制されるか否かを、ラットの脊髄単シナプス反射を指標として研究した。 (1)DOIおよびTRHはそれぞれ単シナプス反射電位を増強したが、併用における相乗的な効果はまったく見られず、相加作用しか見られなかった。 (2)TRHの単シナプス反射増強作用は数種のセロトニン拮抗薬によってまったく抑制されなかった。 以上の結果から、言われているようなTRH受容体とセロトニン受容体の間の相互作用の存在はあまりないこと、今後は、神経栄養因子としてのTRHの役割を重視した研究が必要であると考えられた。
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