1、NGFによるシグナル伝達機構の解析 本研究ではまず、高親和性NGFレセプターtrkA遺伝子産物の(チロシン)リン酸化及び全蛋白質のリン酸化パターンをPC12h細胞を用いて解析した。PC12h細胞とその亜種でNGFに対する応答の早いPC12h-R細胞を比較したところ、TrkAの存在量(発現量)及びTrkAのチロシンリン酸化強度に差異は見られなかったが、TrkAのチロシンリン酸化の持続に顕著な差がみられた。即ち、PC12h-R細胞ではTrkAのチロシンリン酸化がNGF添加後2時間まで持続するのに対し、PC12h細胞では30分で低いレベルに低下してしまうことがわかった。この持続性の違いが早いNGF応答の原因と考えられるので、今後、この持続性の違いをもたらす分子機構を脱リン酸化反応を中心に解析する。特に、チロシン脱リン酸化酵素の基質特異性を種々の合成オリゴペプチド(チロシンリン酸化)を用いて解析する。 2、trkファミリー遺伝子の発現調節 trkファミリー遺伝子の発現調節をラット前脳基底野コリン作動性ニューロンの培養系で解析した。既にRT-PCR法によって、胎児期の前脳基底野コリン作動性ニューロンの組織ではtrkAとtrkB mRNAの発現がなく、生後の組織ではそれらの発現があること、及び胎児期の培養ニューロンにおいてNGFによるtrkA mRNAの誘導がみられることを見い出している。また、生後の培養ニューロンにおいてBDNFによってtrkB mRNAの発現促進が見られることがわかった。したがって、ニューロトロピンレセプターmRNAの発現がそのリガンドであるニューロトロピンによって特異的に促進又は誘導されることが明らかになった。今後、このようなニューロトロピンによる応答ニューロンの活性化機構を探求する。
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