研究概要 |
脳内神経伝達物質遊離調節におけるNMDA受容体の関与を明らかにする目的で、平成5年度の研究計画に従って実験を行い以下の知見が得られた。 1.NMDAの全身投与(3-30mg/kg,i.p.)により、海馬CA1領域および線条体における細胞外タウリン濃度を有意に上昇(投与前の3-5倍)した。線条体におけるその増加作用は海馬における増加作用と比し、持続的であった。一方、グルタミン酸あるいはアスパラギン酸などの他のアミノ酸濃度には著明な変化が認められなかった。2.NMDA(300muM)の両部位へのプローブを介した脳内局所投与(20分間)により、全身投与と同様な作用が観察された。3.上記のNMDAによる両部位における細胞外タウリン濃度増加作用は、NMDA受容体の非競合型拮抗薬であるMK-801(1mg/kg,i.p.)前処置および競合化型拮抗薬であるAP-5(1mM)存在下においてNMDAの作用は消失した。4.高張溶液(150mM庶糖を含むリンゲル液)灌流下において、両部位におけるNMDAによるタウリン増加作用には変化は認められなかった。5.線条体における細胞外ドーパミン濃度はNMDAの全身投与(10-30mg/kg,i.p.)により著明な変動を認めなかった。一方、高用量のNMDA(3mM)の脳内局所投与により、ドーパミンの著明な増加(投与前の約10倍)と持続的なドーパミン代謝産物(DOPACおよびHVA)の減少が観察された。これらのNMDAの作用は、AP-5(1mM)の存在下で強く抑制された。以上の結果より、NMDA受容体の活性化がタウリンおよびドーパミンの遊離を引き起こすことが示唆された。しかしながら、それぞれ遊離の増加を引き起こすに必要な外因性NMDA濃度に差があると思われることから、用量-反応相関を調べる必要性やNMDAの作用機構をさらに詳細に検討することが必要であると考えられる。
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