研究概要 |
脳内神経伝達物質遊離調節における興奮性アミノ酸受容体の関与について、平成5年度および6年度の研究計画に従って実験を行い以下の知見が得られた。1)NMDAの全身投与(10-30mg/kg,i.p.)により、海馬および線条体における細胞外タウリン(TAU)濃度の有意な増加が観察されたが、グルタミン酸(GLU)、アスパラギン酸(ASP)およびドーパミン(DA)関連物質濃度には有意な変動は認められなかった。2)NMDAの短時間(10分間)局所適用により、用量に依存したアミノ酸およびDAの上昇が引き起こされた。TAUは低濃度のNMDA(0.03mM)適用により、有意な増加が観察されたが、GLU、ASPおよびDAは高濃度のNMDA(>1mM)を適用したときのみ有意な増加が認められた。3)NMDA(1mM)およびnon-NMDA受容体興奮薬であるAMPA(1mM)の持続局所適用により、上記アミノ酸およびDAの著明な増加が認められた。NMDA持続適用1時間以降において、その作用に脱感作現象が観察された。とくに、DAにおいて顕著であった。4)NMDAによるTAUおよびDA増加作用は、NMDA受容体拮抗薬のAP-5(1mM)存在下において強く抑制された。non-NMDA受容体拮抗薬のDNQX(0.1-0.3mM)処置により、NMDAによるTAU増加作用は全く抑制されなかったが、DA増加作用は強く抑制された。AMPAのTAUおよびDAに対する作用は、AP-5処置では全く影響を受けなかったが、DNQX処置によりTAUおよびDAに対する両作用は強く抑制された。5)高張リンゲル液(150mM蔗糖を加えたもの)潅流下において、NMDAおよびAMPAによるDA増加作用は強く減弱された。しかしながら、TAU増加作用は全く抑制されなかった。6)NMDA(1mM)の持続局所適用により、アセチルコリン濃度の増加が認められた。7)以上の結果より、脳内神経伝達物質の細胞外濃度調節機構にNMDA受容体の活性化が重要な役割を果たしていること、およびTAUが外因性NMDA投与に対し鋭敏に反応することが明らかになった。また、高濃度のNMDA適用によるDA増加は、細胞障害に伴う細胞膨張あるいはそれに伴う他の伝達物質(GLU?)の遊離増加を介して引き起こされる可能性が示唆された。
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