研究概要 |
低酸素誘起過分極電位の発生機序 1.閾膜電位レベル(-60mV付近)で低酸素負荷によって誘起された過分極電位の振幅は約10mV,過分極電位発生中の膜抵抗は負荷前のそれに比し約40%に減少した。 2.ランプ液通電によるI-V曲線を解析した結果、低酸素負荷によって流れた正味外向き電流は脱分極側で外向き整流を示し、逆転電位は-85mV付近にあった。 3.低酸素誘起過分極電位は高Ca液、低Ca液中で抑制された。 4.低酸素誘起過分極電位は細胞内Caキレート薬であるBAPTA-AMで用量依存性に抑制され、細胞内Ca遊離抑制薬procaine、細胞内Ca枯渇薬ryanodineによっても抑制された。 5.Calmoduline(CaM)阻害薬W-7,trifluoperazineは低酸素誘起過分極電位を可逆的に抑制したが、対照薬であるW-5は有意な影響を与えなかった。 6.CaM kinaseII阻害薬KN-62は低酸素誘起過分極電位を抑制したが、CaM依存性ミオシン軽鎖kinase阻害薬ML-7、A-kinase阻害薬H-89は過分極電位に対して有意な変化を及ぼさなかった。 7.C-kinase阻害薬H-7、staurosporineも低酸素誘起過分極電位を抑制した。逆にC-kinase活性薬SC-9、PDBuは過分極電位を増大した。 8.過分極電位発生中、細胞内Ca濃度(Fura-2AMで測定)は若干ながら上昇した。 以上の実験結果から、低酸素負荷によって上昇した細胞内Ca濃度がさらにCa貯蔵部位からのCa動員を促し、Ca依存性protein kinaseのうちCaM kinaseIIとC-kinaseが活性化されてKチャネルを開孔することが明らかになった。海馬錐体細胞にはCa依存性K電流としてBKチャネル電流とSKチャネル電流があるが、前者はcharybdotoxin,TEAで、後者はapaminで特異的に抑制されるが(Castle et al,1989)、低酸素誘起過分極電位はこれらの薬剤で抑制されないことから(Higashi et al,1992)、前述の従来報告されている膜電位依存性K(Ca)電流とは異なるものと考えられる。
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